「お客さんの顔くらいなら、乳児用をお使いになってもいいですね。今は乳児用しかありません」
24日午前、ソウルの高麗大学安岩病院近くの薬局で薬剤師にこう言われ、大学院生のキムさん(30)は仕方なく乳児用マスク(3枚入り)を6000ウォン(現在のレートで約550円。以下同じ)で買った。キムさんは「近所で8軒回ったが、マスクがない」と語った。薬局もひどい目に遭っている。薬剤師のAさん(52)は「客が入ってきて、マスクの棚を見た後に『きょうもないの?』と皮肉を言ったり、『あるのにないと言ってるんじゃないか』と抗議したりすることもある」と語った。
武漢コロナの地域感染が本格化したことで、日常生活ではマスク着用が必須になったが、お金を払って買おうとしても買えない状況が続いている。本紙が24日午後、韓国首都圏の住宅街周辺の薬局・コンビニ33軒を確認した結果、マスクが売られていたのはわずか3軒だった。
KF(保健用マスクの認証制度)80とKF94のマスクの場合、薬局・コンビニでの小売価格は2000−3000ウォン(約180−270円)だったが、このところオンライン・ショッピング・モールの最低価格は5000ウォン(約460円)前後になっている。3人家族が1カ月過ごそうと思ったら45万ウォン(約4万1000円)かかるラインだ。24日午後には、「50枚39万9000ウォン」(約3万6300円、1枚およそ8000ウォン=約730円)で出品されたマスクも瞬く間に全て売れた。問題は、時折売り出されるマスクすら、文字通り「光速クリック」しても買うのが困難、というところにある。
こんな状態なので、街の病院や薬局の医師・薬剤師が着用するマスクもない。大韓開院医協議会のキム・ドンソク会長は「医療現場にマスクを優先供給してほしいという声明を発表したが、韓国政府から回答はない」と語った。キム会長は、青い手術用マスク1枚で3日間がんばり、患者を診たという。
韓国政府によると、2月の韓国国内のマスク生産量は1日平均1200万枚ほど。この大量のマスクが全てどこかに消えてしまったせいで、お金を払っても買えないということになっているのだろうか。ソウル市広津区の薬剤師キムさん(52)は「卸売業者の話では、取引する製造業者が政府や自治体に優先して物を供給しなければならないため、自分たちも物がないと言っている」と語った。韓国政府が大量のマスクを優先的に受け取っているせいで、従来は市中の流通網を通して正常に供給されていた品が大幅に減った、ということだ。
実際、雇用労働部(省に相当、以下同じ)・保健福祉部・食品医薬品安全処など韓国政府の主要な部処(省庁に相当)は、今月中旬からそれぞれ80万−100万枚を武漢コロナ脆弱(ぜいじゃく)業種従事者などに配布したい、としていた。ソウル市も先月末からマスクを1日18万枚ずつ、公共施設や福祉施設に送っている。
問題は、韓国政府を通して供給されるこうしたマスクの相当数が、本当にマスクを必要とする「需要者」ではないところで浪費されている−という点にある。今月21日、ソウル市城東区のある住民センターに公文書を取りに行ったチャンさん(42)は、無料でKF94マスクをもらった。チャンさんは「欲しいと言ってもいないのに、公務員が、横に載せてある箱からマスクを持っていけと言った」と語った。陳情者の中には、一度に3−4枚ずつマスクを持っていく人もいた。ソウルの地下鉄の駅舎にもマスクが備え付けてある。最初のころはまとめて持っていく人が多く、最近では駅員が1枚ずつ渡す形に変えた。
配達員・宅配ドライバーに無償支給するというマスクも同様だ。「北倉休憩所」(配達員・宅配ドライバーなどの休憩施設)や「感情労働従事者権利保護センター」などでは、身分確認もなしにマスクが支給されていた。きちんと見守る人もおらず、マスクを丸ごと持っていく人もいた。記者が「北倉休憩所」の事務室に入っていくと、電話中の担当者は手振りで「マスクを持っていけ」と示した。担当者は「出るときに記録簿に書いていけ」と言ったが、記録簿は事務室の外にあり、特にチェックもしていなかった。
(以下略)
イ・へイン記者
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2020/02/25/2020022580180.html
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 2020/02/25 18:30