現在、韓国経済はゆるやかに回復している。それを支えているのが、サムスン電子をはじめとする財閥企業だ。ただ、一部の財閥企業に依存するだけでは国民の間の格差が広がり、長い目で見て韓国経済の実力を高めることにはならないだろう。
これまで革新を呼びかけてきた文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、財閥への依存度の高い経済構造を改革し、韓国経済が抱える問題の解決に向かうことが必要になる。
最大の問題は、北朝鮮の脅威がある中で、将来の経済を見据えた抜本的な改革に取り組むことができるか否かだ。ここまでのところ、文政権は初動動作を誤ったように見える。会話をまったく受け付けない北朝鮮との融和姿勢を前面に打ち出し、中国との関係強化を進めてきた。
経済面では、財閥の再編や競争原理の発揮ではなく、財閥企業への依存度はさらに高まっている。文政権は財閥の解体など抜本的な改革に伴う痛みを恐れているのかもしれない。当面、不満解消を狙った近視眼的な政策運営が続くだろう。それでは、韓国が抱える問題の根本的な解決にはならない。
韓国経済を支えるサムスンの実力
北朝鮮問題への不安がある中でも、韓国最大の財閥企業であるサムスンは一貫して業績の拡大を遂げている。4〜6月期、中核企業であるサムスン電子の業績は半導体事業の成長に支えられて過去最高の営業利益を記録した。
この結果、同社は、過去24年間にわたって世界の半導体市場のトップに君臨してきた米インテルの売り上げを上回り、世界トップの半導体メーカーの座を手に入れた。
サムスンは有機ELパネル市場でのシェアも拡大している。7月に同社は韓国国内で2兆円規模の設備投資を発表した。今後もシェアの拡大を軸に、業績は拡大基調で推移する可能性があるだろう。
サムスンの強さは、その組織力にありそうだ。2014年、サムスンの中興の祖であり強烈なカリスマ性の下で財閥全体を統率した李健煕(イ・ゴンヒ)氏は病に倒れた。その容体は定かではなく、一説には死亡説もささやかれている。
その後をついだ李在鎔(イ・ジェヨン)被告は、前大統領であった朴槿恵(パク・クネ)被告への贈賄罪に問われている。同被告は検察から懲役12年を求刑され、短期間で経営の第一線に復帰するのは難しいだろう。
この状況でも、サムスンは利益を追い求め成長を遂げている。これは、組織全体に成長を追い求めるDNA="アニマルスピリット"が浸透しているからだろう。その組織を作り上げたことがイ・ゴンヒ氏の功績といえる。
成長への渇望に駆られたカリスマ的統率者がいなくとも、利益を追求するDNAが各事業のトップからボトムに至るまでの人員に受け継がれている。それがサムスン最大の強みだ。
ただ、忘れてはならないのは、こうした財閥企業の成長は政治によって大きく支えられてきた面があることだ。政府が財閥企業に対して優先的に事業の許認可を与えたりした結果、サムスン電子の売上高は韓国のGDPの2割に達した。事実上、韓国経済は10大財閥による寡占という、かなりいびつな状態になってしまった。
既得権益にしがみつく財閥企業 経済活動の効率化の重要性
富が10大財閥に集中する。その結果、韓国では経済格差が拡大した。言い換えれば、多くの人々が財閥企業の業績拡大のおこぼれに与ってきた。その状況を個人の努力で改善するのは容易ではない。社会全体で経済格差への不満が蓄積され、政治・経済・外交の革新を呼びかけた文大統領の当選につながった。
一方、財閥企業の中には、既得権益にしがみつき、自分たちの利益を守ることを重視している者も多い。典型が自動車業界だ。現代自動車は中国での販売不振から減益に陥っている。本来ならリストラが必要な状況だ。にもかかわらず、同社の労働組合は6年連続のスト実施を決めた。この状況で生産の効率化は見込みづらい。
また、人口減少という問題もある。韓国の出生率は1.2台とわが国よりも低く、状況は一段と深刻だ。文政権は、人口が減少する中で経済を成長させ、一人当たりの所得を増やさなければならない。そのためには、経済全体で競争原理を発揮し、生産性を引き上げなければならない。
http://diamond.jp/articles/-/138205
(>>2以降に続く)
これまで革新を呼びかけてきた文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、財閥への依存度の高い経済構造を改革し、韓国経済が抱える問題の解決に向かうことが必要になる。
最大の問題は、北朝鮮の脅威がある中で、将来の経済を見据えた抜本的な改革に取り組むことができるか否かだ。ここまでのところ、文政権は初動動作を誤ったように見える。会話をまったく受け付けない北朝鮮との融和姿勢を前面に打ち出し、中国との関係強化を進めてきた。
経済面では、財閥の再編や競争原理の発揮ではなく、財閥企業への依存度はさらに高まっている。文政権は財閥の解体など抜本的な改革に伴う痛みを恐れているのかもしれない。当面、不満解消を狙った近視眼的な政策運営が続くだろう。それでは、韓国が抱える問題の根本的な解決にはならない。
韓国経済を支えるサムスンの実力
北朝鮮問題への不安がある中でも、韓国最大の財閥企業であるサムスンは一貫して業績の拡大を遂げている。4〜6月期、中核企業であるサムスン電子の業績は半導体事業の成長に支えられて過去最高の営業利益を記録した。
この結果、同社は、過去24年間にわたって世界の半導体市場のトップに君臨してきた米インテルの売り上げを上回り、世界トップの半導体メーカーの座を手に入れた。
サムスンは有機ELパネル市場でのシェアも拡大している。7月に同社は韓国国内で2兆円規模の設備投資を発表した。今後もシェアの拡大を軸に、業績は拡大基調で推移する可能性があるだろう。
サムスンの強さは、その組織力にありそうだ。2014年、サムスンの中興の祖であり強烈なカリスマ性の下で財閥全体を統率した李健煕(イ・ゴンヒ)氏は病に倒れた。その容体は定かではなく、一説には死亡説もささやかれている。
その後をついだ李在鎔(イ・ジェヨン)被告は、前大統領であった朴槿恵(パク・クネ)被告への贈賄罪に問われている。同被告は検察から懲役12年を求刑され、短期間で経営の第一線に復帰するのは難しいだろう。
この状況でも、サムスンは利益を追い求め成長を遂げている。これは、組織全体に成長を追い求めるDNA="アニマルスピリット"が浸透しているからだろう。その組織を作り上げたことがイ・ゴンヒ氏の功績といえる。
成長への渇望に駆られたカリスマ的統率者がいなくとも、利益を追求するDNAが各事業のトップからボトムに至るまでの人員に受け継がれている。それがサムスン最大の強みだ。
ただ、忘れてはならないのは、こうした財閥企業の成長は政治によって大きく支えられてきた面があることだ。政府が財閥企業に対して優先的に事業の許認可を与えたりした結果、サムスン電子の売上高は韓国のGDPの2割に達した。事実上、韓国経済は10大財閥による寡占という、かなりいびつな状態になってしまった。
既得権益にしがみつく財閥企業 経済活動の効率化の重要性
富が10大財閥に集中する。その結果、韓国では経済格差が拡大した。言い換えれば、多くの人々が財閥企業の業績拡大のおこぼれに与ってきた。その状況を個人の努力で改善するのは容易ではない。社会全体で経済格差への不満が蓄積され、政治・経済・外交の革新を呼びかけた文大統領の当選につながった。
一方、財閥企業の中には、既得権益にしがみつき、自分たちの利益を守ることを重視している者も多い。典型が自動車業界だ。現代自動車は中国での販売不振から減益に陥っている。本来ならリストラが必要な状況だ。にもかかわらず、同社の労働組合は6年連続のスト実施を決めた。この状況で生産の効率化は見込みづらい。
また、人口減少という問題もある。韓国の出生率は1.2台とわが国よりも低く、状況は一段と深刻だ。文政権は、人口が減少する中で経済を成長させ、一人当たりの所得を増やさなければならない。そのためには、経済全体で競争原理を発揮し、生産性を引き上げなければならない。
http://diamond.jp/articles/-/138205
(>>2以降に続く)