台湾は15日、国民党独裁政権によって38年の長きにわたって敷かれた戒厳令(1949−87年)が解除されてから30年を迎えた。
解除後、民主的な社会が実現し、この5月にはアジアで初めて同性婚の合法化を決定するなど、共産党一党独裁の中国との違いを世界に訴えている。
その一方、戒厳令発令前後の国民党政権下では、多くの市民が反政府活動などの理由で拘束、投獄された「白色テロ」が横行。47年には住民を武力弾圧で殺害した「2・28事件」も起こったが、死者数など不明な点が多い。
蔡英文政権は真相究明に取り組む姿勢を改めて強調したが、供述調書など膨大な資料の整理は進んでいない。
台湾の戒厳令は、国共内戦に敗れ、中国大陸からの移転を余儀なくされた国民党の蒋介石らの外省人(第2次世界大戦後に台湾に移住した人々)が、本省人(第2次世界大戦前から台湾に居住する人々およびその子孫)を軍事的に抑えつけなければならないこと、そして中国共産党がいつ攻め込んでくるのかわからないことから発令されたものだ。
私は台湾には200回以上行っているし、企業だけでなく政府の仕事もしてきたが、始めのころはまだ戒厳令が敷かれていた。
日本ではやっていたディスコなどは禁止、夕方5時にはサイレンが鳴り、テレビもラジオも一斉に「上陸用舟艇が攻めてくるかもしれないから、海岸にいる人は、みんな離れなさい」などと叫んでいた。毎日のことなので、ほとんどの人はそれを子守歌ぐらいにしか聴いていなかったようだが。
38年という戒厳令は世界で一番長い。民主化するまで、それだけの時間がかかったということだ。
その後、蒋介石の息子の蒋経国氏が戒厳令を解除し、96年に初めての総統直接選挙が実施され、本省人ながら国民党総裁をやっていた李登輝氏が民主的に選ばれた初の総統になった。民主的に選んでみると、実は大陸から来た人たちはマイノリティーで、もともと台湾にいた人たちがマジョリティーだったことが判明した。
2000年の総統選挙では、86年に結成された民主進歩党(民進党)の陳水扁氏が当選し、政権交代が実現した。ただ、陳水扁時代は汚職などがひどく、08年には国民党の馬英九氏が総統選挙に勝利した。
馬氏は外省人で中国との関係は大幅に改善したが、その後、中国の締め付けなどを危惧した民衆は再び本省人で民進党の蔡英文氏を総統に選んだ。
台湾の歴史は、大陸からやってきた国民党がいかに民主化していくかという歴史でもあった。戒厳令解除から30年、国民党が勝っても、民進党が勝っても、台湾はアジアでは珍しく安定した政権になっている。
一方、中国共産党は独立を宣言しかねない民進党政権を許し難いと思っている。おかしなことに、昔は国民党とケンカしていたが、いまは国民党のほうが話しやすいと言って、国民党の勝利を望んでもいる。歴史の皮肉といえるだろう。
■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170731/soc1707310005-n1.html
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170731/soc1707310005-n2.html
戒厳令時代の真相究明を表明した蔡英文総統だが、前途は多難だ(中央通信社=共同)
解除後、民主的な社会が実現し、この5月にはアジアで初めて同性婚の合法化を決定するなど、共産党一党独裁の中国との違いを世界に訴えている。
その一方、戒厳令発令前後の国民党政権下では、多くの市民が反政府活動などの理由で拘束、投獄された「白色テロ」が横行。47年には住民を武力弾圧で殺害した「2・28事件」も起こったが、死者数など不明な点が多い。
蔡英文政権は真相究明に取り組む姿勢を改めて強調したが、供述調書など膨大な資料の整理は進んでいない。
台湾の戒厳令は、国共内戦に敗れ、中国大陸からの移転を余儀なくされた国民党の蒋介石らの外省人(第2次世界大戦後に台湾に移住した人々)が、本省人(第2次世界大戦前から台湾に居住する人々およびその子孫)を軍事的に抑えつけなければならないこと、そして中国共産党がいつ攻め込んでくるのかわからないことから発令されたものだ。
私は台湾には200回以上行っているし、企業だけでなく政府の仕事もしてきたが、始めのころはまだ戒厳令が敷かれていた。
日本ではやっていたディスコなどは禁止、夕方5時にはサイレンが鳴り、テレビもラジオも一斉に「上陸用舟艇が攻めてくるかもしれないから、海岸にいる人は、みんな離れなさい」などと叫んでいた。毎日のことなので、ほとんどの人はそれを子守歌ぐらいにしか聴いていなかったようだが。
38年という戒厳令は世界で一番長い。民主化するまで、それだけの時間がかかったということだ。
その後、蒋介石の息子の蒋経国氏が戒厳令を解除し、96年に初めての総統直接選挙が実施され、本省人ながら国民党総裁をやっていた李登輝氏が民主的に選ばれた初の総統になった。民主的に選んでみると、実は大陸から来た人たちはマイノリティーで、もともと台湾にいた人たちがマジョリティーだったことが判明した。
2000年の総統選挙では、86年に結成された民主進歩党(民進党)の陳水扁氏が当選し、政権交代が実現した。ただ、陳水扁時代は汚職などがひどく、08年には国民党の馬英九氏が総統選挙に勝利した。
馬氏は外省人で中国との関係は大幅に改善したが、その後、中国の締め付けなどを危惧した民衆は再び本省人で民進党の蔡英文氏を総統に選んだ。
台湾の歴史は、大陸からやってきた国民党がいかに民主化していくかという歴史でもあった。戒厳令解除から30年、国民党が勝っても、民進党が勝っても、台湾はアジアでは珍しく安定した政権になっている。
一方、中国共産党は独立を宣言しかねない民進党政権を許し難いと思っている。おかしなことに、昔は国民党とケンカしていたが、いまは国民党のほうが話しやすいと言って、国民党の勝利を望んでもいる。歴史の皮肉といえるだろう。
■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170731/soc1707310005-n1.html
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170731/soc1707310005-n2.html
戒厳令時代の真相究明を表明した蔡英文総統だが、前途は多難だ(中央通信社=共同)