6月2日採択の国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議は、制裁対象とする個人・団体を追加しただけの中身がない「骨抜き」に終わった。
安保理北朝鮮制裁委員会元専門家パネル委員の古川勝久氏は「理解できない」とした上で、北朝鮮への軍事圧力緩和を望む中国配慮の結果になったとの見方を示した。(外信部次長 黒沢潤)
古川氏は14個人、4団体が制裁対象に追加された今回の対北決議について、「禁輸物資の追加がなく、新たな制裁措置もない。これだけの内容であれば別に新決議は不要。従来は既存の決議のもと制裁委が制裁対象の団体・個人を追加していた」と述べ、「決議の重みを損ない、悪しき前例になりかねない。必要性を理解しかねる」と指摘。
その上で「米軍が圧力を強める中、外交的解決を目指す中国が北朝鮮へのメッセージを決議で強調することに成功し、軍事圧力を緩和する内容だ」と分析した。
安保理決議の本文は5段落しかなく、うち第4項は「朝鮮半島の平和と安定の重要性」を改めて確認しつつ、「平和的・外交的・政治的な解決」への関与を表明し、米軍による北朝鮮攻撃を牽制する内容となっている。
ただ、これまでの決議に盛り込まれていた「六者協議」という言葉が消えており、古川氏は「米朝2国間協議へシフトする可能性をはらんでいる」と指摘する。
制裁対象個人の中には、朝鮮労働党の幹部が多数含まれているほか、従来、対象とされてこなかった人事や宣伝工作等の責任者、偵察総局の対外諜報工作の責任者も含まれている。
一方、核・ミサイル分野に関わる軍需工業省の現役の主要人物(キム・ジョンジク氏ら)がすっぽり抜け落ちた。その代わりとして同省の前主要人物パク・トチュン氏や、第二経済委員会の副委員長、リョンボン総会社の役人らが含まれている。
古川氏は「外貨・物資の調達関係者が主要ターゲットとの印象がある。核・ミサイル計画従事者では、パク・セボン氏のように高齢の元高官が含まれており、『いまさら』感が否めない。他に優先すべき重要人物がいるのでは」と疑問を呈する。
制裁対象には、ベトナム駐在の国連制裁対象銀行、端川商業銀行代表者も含まれている。
昨年の決議2270号では、2人の同銀行の代表者が制裁されていたにも関わらず、その後も別の北朝鮮人が同銀行のためにベトナムに着任していたことになり、「ベトナムが北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に食い物にされている実態が垣間見える」と話す。
戦略ロケット軍がようやく制裁対象になったことについては、「遅きに失した感が否めない」と指摘。他の3団体もいずれも北朝鮮の団体であり、海外の制裁違反団体は一切含まれていない。海外の違反団体のうちロシアやアフリカの団体に対しては、6月1日に米財務省が単独制裁をかけたばかりだ。
古川氏は「日米両国は今後、中国の銀行・企業などに共同で単独制裁を行う必要がある」と訴えている。
古川勝久(ふるかわ・かつひさ)
1966年生まれ。慶応大経済学部卒、米ハーバード大ケネディ行政大学院修了、政策研究大学院大で博士号取得。専門は安全保障、テロ対策など。2011〜16年、安保理北制裁委専門家パネル委員。現在は評論家などとして活躍。
国連安全保障理事会による北朝鮮対応
2006年、初の核実験を実施した北朝鮮に対し、安保理は圧力を強化。核実験が国際社会の「脅威」であると認定し、弾道ミサイル発射とともに全面禁止した。北朝鮮は今年5月29日に3週連続で弾道ミサイルを発射。安保理は6月2日、決議2356を全会一致で採択した。
安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル
安保理が科した制裁の履行状況を調査し、必要に応じて改善を提言する専門家組織。2009年5月の北朝鮮による2回目の核実験を受け、安保理決議をもとに設置された。核不拡散、輸出入管理の専門家らで構成。違反を調査し、報告書を安保理に提出している。
http://www.sankei.com/world/news/170627/wor1706270003-n1.html
安保理北朝鮮制裁委員会元専門家パネル委員の古川勝久氏は「理解できない」とした上で、北朝鮮への軍事圧力緩和を望む中国配慮の結果になったとの見方を示した。(外信部次長 黒沢潤)
古川氏は14個人、4団体が制裁対象に追加された今回の対北決議について、「禁輸物資の追加がなく、新たな制裁措置もない。これだけの内容であれば別に新決議は不要。従来は既存の決議のもと制裁委が制裁対象の団体・個人を追加していた」と述べ、「決議の重みを損ない、悪しき前例になりかねない。必要性を理解しかねる」と指摘。
その上で「米軍が圧力を強める中、外交的解決を目指す中国が北朝鮮へのメッセージを決議で強調することに成功し、軍事圧力を緩和する内容だ」と分析した。
安保理決議の本文は5段落しかなく、うち第4項は「朝鮮半島の平和と安定の重要性」を改めて確認しつつ、「平和的・外交的・政治的な解決」への関与を表明し、米軍による北朝鮮攻撃を牽制する内容となっている。
ただ、これまでの決議に盛り込まれていた「六者協議」という言葉が消えており、古川氏は「米朝2国間協議へシフトする可能性をはらんでいる」と指摘する。
制裁対象個人の中には、朝鮮労働党の幹部が多数含まれているほか、従来、対象とされてこなかった人事や宣伝工作等の責任者、偵察総局の対外諜報工作の責任者も含まれている。
一方、核・ミサイル分野に関わる軍需工業省の現役の主要人物(キム・ジョンジク氏ら)がすっぽり抜け落ちた。その代わりとして同省の前主要人物パク・トチュン氏や、第二経済委員会の副委員長、リョンボン総会社の役人らが含まれている。
古川氏は「外貨・物資の調達関係者が主要ターゲットとの印象がある。核・ミサイル計画従事者では、パク・セボン氏のように高齢の元高官が含まれており、『いまさら』感が否めない。他に優先すべき重要人物がいるのでは」と疑問を呈する。
制裁対象には、ベトナム駐在の国連制裁対象銀行、端川商業銀行代表者も含まれている。
昨年の決議2270号では、2人の同銀行の代表者が制裁されていたにも関わらず、その後も別の北朝鮮人が同銀行のためにベトナムに着任していたことになり、「ベトナムが北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に食い物にされている実態が垣間見える」と話す。
戦略ロケット軍がようやく制裁対象になったことについては、「遅きに失した感が否めない」と指摘。他の3団体もいずれも北朝鮮の団体であり、海外の制裁違反団体は一切含まれていない。海外の違反団体のうちロシアやアフリカの団体に対しては、6月1日に米財務省が単独制裁をかけたばかりだ。
古川氏は「日米両国は今後、中国の銀行・企業などに共同で単独制裁を行う必要がある」と訴えている。
古川勝久(ふるかわ・かつひさ)
1966年生まれ。慶応大経済学部卒、米ハーバード大ケネディ行政大学院修了、政策研究大学院大で博士号取得。専門は安全保障、テロ対策など。2011〜16年、安保理北制裁委専門家パネル委員。現在は評論家などとして活躍。
国連安全保障理事会による北朝鮮対応
2006年、初の核実験を実施した北朝鮮に対し、安保理は圧力を強化。核実験が国際社会の「脅威」であると認定し、弾道ミサイル発射とともに全面禁止した。北朝鮮は今年5月29日に3週連続で弾道ミサイルを発射。安保理は6月2日、決議2356を全会一致で採択した。
安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル
安保理が科した制裁の履行状況を調査し、必要に応じて改善を提言する専門家組織。2009年5月の北朝鮮による2回目の核実験を受け、安保理決議をもとに設置された。核不拡散、輸出入管理の専門家らで構成。違反を調査し、報告書を安保理に提出している。
http://www.sankei.com/world/news/170627/wor1706270003-n1.html