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魔物の悪戯
エースこそ、超高校級だが、チーム全体を見渡せば、とりたてて強打者がいるわけでもない。守備だって危なっかしい。控え選手の層も薄い。そんな公立校の快進撃の裏には、甲子園の魔物が味方しているのかも知れない。
信じられない逆転劇や奇跡のドラマを生むたびに話題となる魔物説。それを目のあたりにしたのは準々決勝の近江戦だった。1点差を追う9回裏の金足農の攻撃が始まる前からスタンドは異様な雰囲気になっていく。1球ごとにどこからともなく自然発生の拍手がボルテージを上げていった。
ここでのキーワードは「判官びいき」だ。かつては野球不毛の地と言われた東北からの出場校。しかも野球エリートの集まる強豪私学ではない県立校、今ではほんの一握りとなった農業高校。こうした弱者?のひたむきなプレーに甲子園のファンは何かのドラマを期待して拍手を送り、肩入れする。
一方で1点を守り切ろうとする近江側には、通常のプレッシャーに加えて、球場全体を敵に回すような重圧がのしかかる。まさに魔物が勝負をかき回す局面。案の定、さして強力とは言えない金足農の下位打線が連打と四球で無死満塁。最後は奇跡の逆転2ランスクイズで大どんでん返しの幕は降りた。
ここでも近江の守備陣は奇襲に対応すべく声を掛けたが大歓声でかき消されたという。これもまた魔物の悪戯というべきか。準決勝の日大三戦では再三の大きな飛球が風に戻されて金足に味方する場面もあった。仮に左翼に強風が吹いていたら勝敗は変わっていたかもしれない。甲子園の気まぐれな風は過去にも魔の演出をしてきた。
さあ、決勝は大阪桐蔭戦だ。名だたる強打者と好投手を揃えて春夏連覇を目指す桐蔭が現在の高校野球をリードする代表格なら、エースの吉田を中心に愚直なまでのバント野球を展開する金足農は昔の香りがする曲者集団。原稿を執筆する現時点で勝者は明らかではない。だが、第100回の節目の大会にふさわしい頂上決戦であることは間違いない。大阪桐蔭にとっては、甲子園の魔物との戦いでもある。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180820-00163229-baseballk-base&p=2
魔物の悪戯
エースこそ、超高校級だが、チーム全体を見渡せば、とりたてて強打者がいるわけでもない。守備だって危なっかしい。控え選手の層も薄い。そんな公立校の快進撃の裏には、甲子園の魔物が味方しているのかも知れない。
信じられない逆転劇や奇跡のドラマを生むたびに話題となる魔物説。それを目のあたりにしたのは準々決勝の近江戦だった。1点差を追う9回裏の金足農の攻撃が始まる前からスタンドは異様な雰囲気になっていく。1球ごとにどこからともなく自然発生の拍手がボルテージを上げていった。
ここでのキーワードは「判官びいき」だ。かつては野球不毛の地と言われた東北からの出場校。しかも野球エリートの集まる強豪私学ではない県立校、今ではほんの一握りとなった農業高校。こうした弱者?のひたむきなプレーに甲子園のファンは何かのドラマを期待して拍手を送り、肩入れする。
一方で1点を守り切ろうとする近江側には、通常のプレッシャーに加えて、球場全体を敵に回すような重圧がのしかかる。まさに魔物が勝負をかき回す局面。案の定、さして強力とは言えない金足農の下位打線が連打と四球で無死満塁。最後は奇跡の逆転2ランスクイズで大どんでん返しの幕は降りた。
ここでも近江の守備陣は奇襲に対応すべく声を掛けたが大歓声でかき消されたという。これもまた魔物の悪戯というべきか。準決勝の日大三戦では再三の大きな飛球が風に戻されて金足に味方する場面もあった。仮に左翼に強風が吹いていたら勝敗は変わっていたかもしれない。甲子園の気まぐれな風は過去にも魔の演出をしてきた。
さあ、決勝は大阪桐蔭戦だ。名だたる強打者と好投手を揃えて春夏連覇を目指す桐蔭が現在の高校野球をリードする代表格なら、エースの吉田を中心に愚直なまでのバント野球を展開する金足農は昔の香りがする曲者集団。原稿を執筆する現時点で勝者は明らかではない。だが、第100回の節目の大会にふさわしい頂上決戦であることは間違いない。大阪桐蔭にとっては、甲子園の魔物との戦いでもある。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180820-00163229-baseballk-base&p=2